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クロエショルダーバッグサム編集

「馬鹿ねえあんたたち。こんな秋晴れのいい天気だもの。しかも日曜日だもの。うちにじっとしてるもんですか」  竜太と楠夫はしょぼんとした。 「なあんだ、留守か」  保志は腹立たしそうに小石を蹴《け》って、 「ああ急に腹へった」  と、玄関前にへたりこんだ。今しがた正午のサイレンが鳴ったところだ。 「しようがない、少し待ってみようか」  美千代も風呂敷を抱えながら、屈《かが》みこんだ。竜太と楠夫は立ったまま、辺りを見まわした。佳世子は早速スカートのポケットから、蝋《ろう》石《せき》を出して、地面に女の子を描き始めた。左手にはお祝いに持って来た、金と銀の折鶴の入っている紙袋を大事そうに抱えている。  二、三日前のことだった。坂部先生の家に結婚祝いに行こうと姉の美千代が言い出した。竜太は「行く行く」と賛成し、受持たれたことのない弟の保志までが、「ぼくも行く」と騒ぎ立てた。聞きつけた楠夫とその妹の佳世子も、ついて行くということになった。母のキクエが大きな重箱に、いなりずしをぎっしり詰めて、持たせてくれることになった。 「先生の家で、お嫁さんと一緒に、いなりずしを食べてきたらいいさ」  キクエはそう言って、今日いなりずしを作ってくれたのだ。  坂部先生は谷川冴子先生と、半月程前に結婚した。竜太たち六年二組の者は、結婚式の次の日、学校に出て来た坂部先生のために、「先生、結婚おめでとう」と、赤いチョークで黒板に大きく書き、みんなが寄書きのように、思い思いにひとこと宛《ずつ》祝辞を書いた。坂部先生はそれを見て、しばらく黙っていたが、 「ありがたいもんだなあ。写真機を持っていたら、写しておきたいところだが……」  そう言って教卓から画用紙を取り、みんなの言葉をさらさらと書き写した。竜太は、 「先生、これからもぼくたちの先生でいて下さい」  と書いた。あとから、馬鹿なことを書いたなと思った。竜太はちょっと淋しかったのだ。それだけに、美千代が先生の家に行こうと言った時は、叫び出したいほどうれしかった。  竜太は、自分の小遣いで、先生に何か贈り物をしたいと思った。さんざん考えた末、トランプを贈ることにした。何となく坂部先生はまだトランプを持っていないような気がした。そのトランプを買いに、わざわざ師団通りに出かけて行った。旭川には七師団がある。駅前から北に向かって、その師団に通ずる一粁《キロメートル》程の商店街があり、師団通りと呼ばれていた。両側の舗道に鈴《すず》蘭《らん》の形をした街灯が並んでいて、それがいかにもモダンだった。この師団通りの一角に、勧《かん》工《こう》場《ば》と呼ばれている子供向きの店があった。ラッパや、刀などが天井から束になって吊《つ》るされ、様々な玩具や、セルロイドや千代紙の箱等が所狭しとひしめいていた。ここで何かを買ってもらうのが子供たちの夢でもあり、誇りでもあった。 「これ、勧工場で買ったんだぞ」
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