ルイヴィトンポルトフォイユエミリーダミエ
null
null あまりにも唐突で、まったく備えを用意していない言葉だった。それだけで、志貴はこのキャスターが偽者だなどという馬鹿げた考えを忘却の彼方に追いやっていた。  思えばあの日、イリヤが死に、バーサーカーが消え、志貴も生と死の狭間を彷徨ったあの日。アーチャーやギルガメッシュが現れなければ、志貴はそのまま三咲町に帰っていたかもしれない。キャスターに別れの言葉も告げずに、悩んでいた彼女のことなど考えずに、消え去ろうとしていたのだ。 「気まずくて。その、どうすれば良いのか、わかりませんでしたし」  あれ程身体を苛んでいた頭痛のことも忘れる衝撃が、志貴の頭を貫いた。  志貴は忘れてしまっていたのに、キャスターはずっとそのことで煩悶していたのだろう。心底落ち込んだような声色は、彼女の苦悩の全てを内包していた。  馬鹿者と自分を詰り、底まで堕落してしまったような忸怩たる気持ちになる。そんな、最低限のことも忘れるほどに、自分は没頭しているのか。情けない。あまりにも、無様だった。 「そうだよな、キャスター。ごめんな、キャスター……」 「何を……?」 「おまえが苦しんでるってわかってたくせに。俺はおまえがルール・ブレイカーを刺してくれることを期待してた。そうすれば帰れるって。一緒に戦ってくれたおまえを裏切ろうとした。俺は、おまえを貶めた連中と、同じだ」  志貴は慙愧し、頭を垂れた。罪悪感でいっぱいになった胸を八つ裂きにしてしまいたい衝動を堪えながら、志貴はキャスターの言葉を待つ。 「違います。貴方は違う。だからそんなことは、言わないで」  掠れるような声に、何かがこみ上げてくる。キャスターの意図がようやく掴めた。馬鹿。言葉にはしなかった。 「志貴、ですからとにかく、今は静観しなければ。今生まれようとしているものは、とても太刀打ちできるものではない」 「おまえを見殺しにできるか」 「志貴?」 「今も柳洞寺にいるんだろ。全部聞いてる。まったく、そう言えば俺が来ないとでも思ったか? そうは行くか。俺は、大事な人を見殺しにするのは、もう二度とご免なんだからな」 「な……! 来てはいけません志貴!」  キャスターは可笑しい。