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null 深芳野の歔《きょ》欷《き》は深くなっている。そのほそいうなじ《・・・》のふるえは、子の目からみても異常に女くさい。義竜は生母に奇妙ななまなましさを感じ、異臭を嗅《か》いだような不快感がつきあげてきた。 「おんな。——」  と叫びたい衝動を義竜はおさえかねているようであったが、やがて目をそむけた。が、自分を生んだ女体はいよいよ歔欷をつづけてやまない。  義竜は、気長に深芳野の返事を待った。そのひとことで、道三こと若き日の通称庄九郎が美濃で営々として築きあげた権力という芸術作品は一挙に崩れ去るであろう。それも、庄九郎こと道三が、およそたか《・・》をくくって平然と不幸におとし入れたひとりの非力の女からである。  義竜はなおも生母の唇の動く瞬間を待ちつづけたが、深芳野の沈黙はそれ以上につづこうとした。義竜はついにたまりかねた。 「母者。答えてくださらねばそれでもよい。義竜は、そう信ずるのみです。わしの父君は鷺山城にある斎藤山城入道道三にはあらず、さきの美濃守護職、土岐源氏の嫡流、美濃守頼芸殿であることを。——」 「お屋形さま」  と、深芳野はやっと顔をあげた。 「そうとすれば、あなたさまはどうなさるのです」 「義竜は男でござる。男としてのとるべき道をゆくのみだ」  といって、座を立った。廊下に出、障子をしめ、一瞬その場に立ちどまって内部の気配をうかがったが、深芳野はなお泣きくずれているようであった。  義竜は濡《ぬ》れ縁を蹴《け》り、巨《きょ》躯《く》を宙にとばし、庭におり立った。そうする必要もないことだが、なにかしら、そうとでもしなければ自分を鎮《しず》めがたいものがあったのであろう。  鷺山の道三は、むろんそういうことは知らない。この男は、  ——義竜を廃嫡する。  とは言明したことがない。お勝の仇討事件で日ごろの義竜への感情がなるほど募りはしたが、廃嫡、とまでは真底から考えているわけではなかった。正直なところ、廃嫡して事を荒だてるには、道三は年をとりすぎていた。  おだやかな毎日がほしい。  そういう慾望のほうがつよくなっている。すでに働き者の権謀家のかげがうすれ、平和をこのむ怠惰な老年をむかえようとしていた。