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「ドイツ野郎《ク ラ ウ ツ》は、日本人は魔術を使うと思っている。貴公のせいだ」  小泉は言って、カラカラと笑った。髭にビールの泡がついている。 「あ、そんな話がお耳に入っていますか……この数年ヨーロッパ諸国をまわって武者修行をしましたが、素手の闘いでは怖れる相手には出喰わしませんでした」  玉城勇民は笑って、ボクシングの技で、利き腕を真っ直ぐ伸して撃ち込んで来るのと、それに接近して下から突きあげて来るのが、油断すると危ないくらいのものだと言う。  それにしても時々、ボクシングの遣い手の中には異常に打たれ強い男がいて、正拳を急所にめり込ませても、耐えるのには驚いたと話すのに、柔道師範の小泉誠太も覚えがあるようで、何度も深く頷いた。 「左舷十一時の方角に鯨です」  見張りが見つけた瞬間、Uボートかと肝を冷やした鯨を、事務長の河田と書記《クラーク》の吉川は、英語とフランス語で乗客にふれてまわる。  甲板に出た乗客達は、陽が波に照り返すのに目を細めて海面を見詰めると、藍色のうねりの中に黒い鯨の背を見付けた。 「一匹じゃない、二匹いるぞ」  誰かが叫んだ途端に、二頭の鯨が揃って白い潮を吹きあげる。 「凄い……」  パチパチと手を叩いた乗客がいて、甲板には久し振りで笑い声が湧きあがった。  小泉と玉城も坐っていたデッキ・チェアから立って、舷側の手摺に身体をもたせている。 「巨きさから見て、親子ではなくて夫婦だな……」  小泉が言った途端に、八坂丸の真横百メートルほどのところで、海面が盛りあがると二頭の鯨がほとんど尻鰭《しりびれ》が見えるほど、垂直に白い腹を合わせて直立した。 「オオッ」  乗客達は、陽を浴びて海面にそそり立った二頭の鯨を見て驚いた。 「あれは鯨がサカっているんだ」
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