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ルイヴィトンマルチカラー男編集

 この使用人用別棟と地上二階、地下二階建ての母屋との距離は百五十メーターほどだ。だが朴は、別棟から母屋にいる時の自分を出来るだけ覗かれないようにと、二つの建物のあいだに林と|築《つき》|山《やま》を置いていた。  林は常緑樹が多い。築山は変化に富んでいる。新城にとって、身を隠すのにおあつらえ向きだ。  新城は着ぶくれていた完全防水の作業上着も脱いだ。汚水の悪臭がしみこんでいるからだ。その下に、褐色に近いフォレスト・グリーンのアラスカ森林警備隊用の|岩乗《がんじょう》なシャツ・ジャケットを着ている。その材質も百パーセント・ピュア・ヴァージン・ウールだ。|緻《ち》|密《みつ》に織ってあるので、化学処理をほどこさなくても水をはじく。  その部屋には、小さな換気用の窓が一つだけついていた。カーテンもブラインドもついてない。  だから、その窓から射しこむ|淡《あわ》い月明りで、新城は乾燥室のなかの様子をよく見ることが出来たのだ。  新城は窓ぎわにそっと身を移した。ラッチを外し、窓を開く。音もたてずに跳び降りると、外側から窓を閉じた。  その窓から五メーターほどの|間《かん》|隙《げき》を置いて林がはじまっていた。迷路のように小路がつけられているが、雑草や|灌《かん》|木《ぼく》も多く、都内の特等地とは思えない。最大の|贅《ぜい》|沢《たく》を少し前までの朴は楽しんでいたのだ。今は、心が不安と恐怖に占められていて、この景色を楽しむどころではあるまい。新城は林まで|這《は》った。  林にもぐりこむと、左手に左の腰から抜いたラヴレスのガット・フック・スキナーのハンティング・ナイフを抜き、右手には消音装置付きのベレッタ・ジャガーを握った。  林の向うから、樹々にさえぎられながらも、母屋の灯がわずかに|漏《も》れている。  新城は林のなかの小路を十メーターほど進んだ。  そのとき新城は、小路の上を、一本の針金が|膝《ひざ》ぐらいの高さに張られているのを発見した。  その針金は、反射を防ぐパーカライジングの表面処理がしてあった。黒褐色の表面はザラザラしているので、光が当たっても反射しないのだ。  新城のように|狼《おおかみ》の目を持つ男でなかったら、その針金を発見することなど、とても出来なかったにちがいない。山野組が買収した朴のお手伝いは、こんな針金の仕掛けについては何もしゃべってくれてなかったのに……。  針金の両端は、小路の両脇の灌木のなかに消えていた。罠の引金にちがいない。腹這いになった新城は、引金の役をしている針金の右端が消えている灌木の中から調べはじめた。  だが、落葉の上についた|右《みぎ》|肘《ひじ》が、ぐすっと地面にのめりこんだ。その途端、激しい風切り音をたてて、カブラ矢が新城の背中の上を通過した。     執 念
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