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ルイヴィトンダミエグラフィットベルト編集

「留美さん?……」  と忘れてしまったふりをした。 「ほら、あのとき一緒だったお友達です」 「……ああ、あの痩《や》せっぽっちのスタイリストね」  清里は、顔にわけもなく血が昇ってくるのがわかった。  その顔のほてりは、受話器を置いて、煙草に火を点《つ》けても、まだ消えなかった。清里は、顔に煙幕でも張るように、もうもうと煙草をふかしながらあたりを見廻したが、編集部には他人の顔色を気にしている者など、一人もいない。  俺はどうかしているな、と清里は思い、それを芹沢妙子のせいにして、あの年頃の女の図々しさ、なれなれしさには、かなわんな、と思った。調子が狂っちゃうよ、全く。  彼は、煙草を一本、ゆっくりふかしてから、隣りで原稿依頼の手紙を書いているおなじ読物班の北岡に、 「ちょっと、むかいのブーケまで。六時には帰るから」  といって席を立った。  編集室を出て、エレベーターの乗り場へいく途中、ふくらんだ紙袋を両手に提げたファッション班の古顔の佐野弓子に会った。髪が乾いて艶《つや》を失い、目尻の小皺《こじわ》が目立っている。 「その顔は、ロケ帰りか」 「図星」 「どこまで?」 「秋川くんだり」 「お疲れさん」  とすれちがって、 「そうだ、佐野ちゃん」
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