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ヴィトン新作 2012財 布編集

 山本が話題を変えるような口ぶりで、その実同じ問題に更に踏みこんで行った。  だが伯爵は平然としていた。 「いろいろ嫌《いや》なことを言われているのは私も知っています。そもそもバンカーとは、金融業者の一族が昔から名乗っていた由緒ある姓なのです。バンカー一族はトランシルヴァニアの各地で、今も金融業を続けており、アル・ベニーなどの有力者たちとは、仕事の上で堅く結ばれています。社会に貢献する、意義ある存在です。しかし、この辺りには貧しい者が多く、彼らは借入れ金の返済に困ると、私どもバンカーを、あたかも吸血鬼の化身《けしん》ででもあるかのように悪く言い、うらむのです。いったいバンカーのどこが吸血鬼ですか。金を借りたのは彼ら自身なのですぞ。バンカーは金を貸すのが商売……貸したらとりたてますし、借りたら返さねばならんでしょう」 「なるほど、よく判りました」 「ルナという意味を説明していただけませんか」  吉永が言うと、伯爵は彼のほうに向きなおり、困ったような表情をした。 「ルナ……もちろんそれは月です。我々トランシルヴァニア人は、月を最高の存在として崇《あが》め、愛しています。太陽は肉を育て物を熱しますが、月は知恵を育て物を冷やします。知恵……その究極のものは、生命の神秘によって支えられた精神の中に湧きあがる。限界のない、さまざまな未知の力です。まだ証明はできませんが、月がその未知の力に関与していることを、みな信じています。大地の性質が場所によって異り、或る所では大蒜をよく育て、或る所では金や宝石を生みだすように、月の光を吸収して月的な力の場を作りだす作用も、土地によって異るのです。私がここに住んでいるのはその為です。ここ|丸 の 内《ミツテル・ランド》は、トランシルヴァニアでも最もルナの強い土地とされています」 「何をなさっていらっしゃるのですか」 「ありとあらゆることを。錬金術、死者蘇生術、未来予知、時間旅行……」 「できるのですか」 「完全とは言えません。特に私は、道具を用いることを極力排除しているのです。物の力には限界があり、精神の月的《ルナテイツク》な力には遠く及びませんからな。物に頼れば精神が堕落してしまいます。世の多くのインチキ魔術師どもは、みな物に頼りすぎるのです。強いルナを浴びてみずからの精神の中を旅し、奥深くわけ入ってこそ、月的《ルナテイツク》な力が得られるのです。薪を運んで来た巨人は、イーゴルと言い、私の死者蘇生術でよみがえった男です。彼は、ナン・マタル湖のメタラニム島で古代遺跡を発見したのですが、その時ふしぎな世界へ紛《まぎ》れこんで、あの通りの姿になってしまったのです」 「ナン・マタルとメタラニム……」  山本と吉永が顔色を変えた。 「なに、それ……」  伊東が二人に尋ねる。 「メリットの世界だ。ムーン・プールさ」  吉永がうめくように言った。 「ひょっとすると、ジョーカンジーは、そのメタラニム島から出現したのではありませんか」
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