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null ネオンが熟(う)れきっていた。  新宿・歌舞伎町は夜が盛(さか)んだった。  慎平は、その街をあてどなく歩いていた。  亜希子に離婚を通告して、成城の家を飛びだしてきた直後である。  心に、吹きすさぶものがある。  慎平は今、群衆にもまれてただ歩きたかった。離婚宣告、あれでよかったのかどうか。亜希子の衝撃は相当のようだったが、本当にあれでよかったのかどうか。  慎平の気持ちは弾(はず)まない。亜希子のために、すべてを捨ててきたのだ。愛する妻のために、億という財産をすべて渡して、家を出てきたのだ。そう思えば、今どき、珍しい潔(いさぎよ)さと、男らしさではないかと、妙にストイックな昂揚感にかられたりもする。  現に、亜希子を会社倒産とともに路頭に迷わせたくはない。それが偽装離婚の第一の目的である。だが、慎平自身にも計算がある。その行為は同時に財産保全対策にもなるのだ。  今、債権者に取られてしまえば、慎平と船山家は一切(いつさい)を失うが、亜希子に譲っておきさえすれば、ほとぼりがさめた暁、いずれ慎平の手許に戻ることになる。  いわば、財産の預託制度。それを銀行や証券会社にではなく、愛する亜希子の腕の中に託すのである。  しかし亜希子は、その真情も、真相も知らない。裏切られたと思って、苦しむだろう。  またそれが偽装離婚であることが、客観的に露見しないために、これから慎平は次々に必要な手を打たねばならないのであった。  まず愛人。誰かと半同棲じみた生活をする。  逃避行も企てねばならない。それをこの一週間以内にてきぱきと準備しよう。  そのための女は、今日の夕方、電話をして歌舞伎町のスナックに待たせてもいる。  だが今、慎平はどうしてもその女のところにまっすぐ、赴(おもむ)く気持ちにはなれないのであった。  だから、街をさまよっている。亜希子の悲嘆を考えると、身を切られるように辛いのだ。その悲嘆が大きければ大きいほど、慎平がもくろむ偽装離婚は、ますます真実味を増すことになる。 (許してくれ。亜希子)