シャネルキャビアスキンバッグ
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null「お前の宝物さ。このテレビだよ」 「嫌《いや》よ」  光子は悲鳴をあげるように言い、あおむけに寝ている私の腰の辺《あた》りを爪先で軽く蹴《け》った。 「そんなことしたら承知しないから。これは世界で最初のトランジスタ・テレビなのよ」 「判《わか》ってるよ。流す気なんかないさ」 「質屋になんか入れられてたまるもんですか。そんなことしたら、世界で一番最初にトランジスタ・テレビを質屋に入れた人間になっちゃうわ。歴史に残っちゃうから」  私は笑った。たしかにそうかも知れなかった。 「お金はなんとかなるし、谷口さんも助かるわ。だから変なこと考えないで、お蒲団《ふとん》をしいてよ」 「よし来た」  私は弾みをつけてはね起き、赤いテーブルの上の灰皿をどけると、テーブルの脚を折っていつもの場所へ置き、押入れの蒲団《ふとん》を引っぱり出した。三幅《みの》の蒲団だが枕はちゃんと二つあった。  廊下の突き当たりにあるトイレへ交代で行ったりして、十分後には二人とも蒲団の中にいた。 「あなたがやられてたら、あたしは今ごろ大変ね」  光子は私の胸に顔を伏せて言い、 「この辺を射たれたのね」  と心臓の上に唇《くちびる》を当てた。 「ばか、そこじゃ即死だよ」  そう言うと、光子の唇はすぐ右の胸へ移って行った。