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null 妻は黙って目をみはっていたが、やがてその目を閉じて、ながながと吐息した。  その夜、小夜子が私に、トンカツを上手に揚げるこつ《・・》などを講義して帰ったあと、私と妻とは、まず小夜子のことから相談したが、ともかく小夜子をアンクル・カツからつれ戻《もど》すことに意見が一致した。けれども、年末から年始にかけてはどこの店も大多忙で、無理矢理つれ戻しては角が立つだろうから、一応先方に話だけは通じておいて、正月の十日に円満に店をやめさせることにし、それまでにしかるべき職場を探してやることにした。要の転職については、本人に直接会ってききたださないことには、皆目見当がつかない。 「とにかく。」と私はいった。「今年はきょうだいそろって、この部屋で年越しすることにして、みんなを召集しようよ。その機会に、みんなで今後のことを相談すればいいわけだ。僕もみんなにちょっといっておきたいことがある。そうしよう。」 「馬鹿《ばか》なきょうだい達で、あたし、恥ずかしくって……。」と妻は目を伏せていった。「でも、五人集まると、かかりますわよ。」 「かかったっていいじゃないか。いつもの正月とちがうんだもの。きょうだいが散るか、まとまるかの境目なんだぜ。あれを、やれよ。」 「あれですか?」  妻は眉《まゆ》をひそめて、押入の方をふりむいた。あれというのは、私の物語について誰《だれ》かが話したいといってきたときに、私がよけいな恥をかかなくてもすむようにと、妻が行《こう》李《り》の奥深く仕舞っておいた私の一張羅《いっちょうら》の背広であった。それを質屋に預かってもらえば、きょうだい五人、なんとなく正月気分のする二、三日が送れるはずであった。私は、自分の仕事をすっかり諦《あきら》めてしまったわけではなかったが、ここ当分、それを必要とするような事態は起こりえないという見当ぐらいはついていた。  夜ふけて、妻は要に速達の手紙を書き、私は、おなじ電車の沿線にあるナイロン靴下《くつした》の工場に勤めている郷里の遠縁の娘に宛《あ》てて、女工の募集の有無について問いあわせる手紙を書いていると、 「メリー・クリシマシ! メリー・クリシマシ!」  掘割の方から大きく叫ぶ声がきこえた。酒に酔った家主の左官屋の声であった。 「おや、今日はクリスマスか?」 「いいえ、明日がイヴですよ。」 「ははあ。奴《やっこ》さん、酔っ払ってまちがえてるんだな。」 「あら、もう十二時をまわってるから、正確には、二十四日よ。」  そんなことを話していると、またなにか喚《わめ》く声がきこえて、耳をすますと、 「どうでえ。俺んちの勘坊はな、十二月二十五日の生まれだぞお。キリシト様と誕生日がおんなじなんだぞおい。どうでえ。メリー・クリシマシ!」  私と妻は、顔みあわせて、ぷっと笑った。