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ダミエファセットジョーヌジッピーウォレット編集

 お菓子のとりあいになったとき、「ぐすっ、ひくっ、しくしく……このケーキ、高志にあげるね。だって、私、お姉ちゃんだもん、我慢《がまん》する」としゃくりあげる。  申し訳なくなった高志はケーキを譲《ゆず》り、「お姉ちゃんごめんっ」と姉に謝罪する。  姉は「そんなに謝るなら、しかたないから食べてあげるね……私が欲しいんじゃないんだけど……」ともったいをつけてケーキを食べる。  そして、「はい、食べてあげたわよ。感謝なさいね。もう、頼りない弟を持つと困っちゃうのよね。あー、私って、いいお姉ちゃんよねっ」と胸を張る。  高志は自分のお腹《なか》の鳴る音を聞きながら、満足そうな姉に「ありがとう」とお礼を言うのだった。  姉はいつもこの手で高志をやりこめた。  お茶碗《ちゃわん》を洗う当番でいさかいを起こしたときも、テレビのチャンネル権も、掃除《そうじ》も全部だ。  姉の手口はわかりきっているにもかかわらず、女の涙は根拠《こんきょ》のない罪悪感を男に与える。  しかも瑞希の場合、ほんとうに涙が出るのだから始末に負えない。  だが、今回はことがことだ。  取り憑かれているのか二重人格なのか知らないが、死んでしまった姉に、自分の身体の使用を許諾《きょだく》するのは、さすがの高志でもできなかった。 『ちょっとだけ、君の身体、使わせて』  両子を合わせた上目遣《うわめづか》いのお願いポーズで高志を見あげている姉の姿が脳裏によみがえった。 『ねっ? お願い』  ねっ、という声が甘く響く。 「ダメ」 『ひっどいーっ。わーんっ、わぁんわぁん。えーんえーん』  泣き落としをする姉の泣き声が派手になった。
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