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2015-02-06 23:40    ルイヴィトンダミエ財布
 われわれは朽ちかけた遊動円木《ゆうどうえんぼく》に腰かけて、楕《だ》円《えん》の上を近づき又遠ざかるマラソンの練習者たちを、見るともなしに眺《なが》めた。学校を怠けている時間の、下ろしたてのシャツのような肌《はだ》ざわりが、周囲の日ざしや微《かす》かな風のそよぎから感じられた。競技者たちは苦しい息の一団をなして徐々に近づき、疲労が増すにつれて乱れた跫音《あしおと》を、舞い立つ土埃《つちぼこり》と共に残して遠ざかった。 「阿《あ》呆《ほう》な奴《やつ》らだな」と、負け惜しみにきこえる余地を少しも残さずに柏木は言った。「あのざまは一体何だろう。奴らが健康だというのか。それなら健康を人に見せびらかすことが何の値打があるんだい。  スポーツはいたるところで公開されているね。まさに末世の徴《しるし》さ。公開すべきものはちっとも公開されない。公開すべきものとは、……つまり死刑なんだ。どうして死刑を公開しないんだ」と、夢みるようにつづけた。「戦争中の安寧秩序は、人の非業の死の公開によって保たれていたと思わないかね。死刑の公開が行われなくなったのは、人心を殺伐ならしめると考えられたからだそうだ。ばかげた話さ。空襲中の死体を片附けていた人たちは、みんなやさしい快活な様子をしていた。  人の苦《く》悶《もん》と血と断末魔の呻《うめ》きを見ることは、人間を謙虚にし、人の心を繊細に、明るく、和やかにするんだのに。俺たちが残虐《ざんぎゃく》になったり、殺伐になったりするのは、決してそんなときではない。俺たちが突如として残虐になるのは、たとえばこんなうららかな春の午後、よく刈《か》り込まれた芝生の上に、木洩《こも》れ陽《び》の戯《たわむ》れているのをぼんやり眺めているときのような、そういう瞬間だと思わないかね。  世界中のありとあらゆる悪夢、歴史上のありとあらゆる悪夢はそういう風にして生れたんだ。しかし白日の下に、血みどろになって悶絶《もんぜつ》する人の姿は、悪夢にはっきりした輪郭を与え、悪夢を物質化してしまう。悪夢はわれわれの苦悩ではなく、他人の烈しい肉体的苦痛にすぎなくなる。ところで他人の痛みは、われわれには感じられない。何という救いだろう!」  しかし今や私は、こういう彼の血なまぐさい独断よりも、(もちろんそれはそれとして魅力のあるものではあったが)、童貞を破ったのちの彼の遍歴のほうをききたかった。私がひたすら彼から「人生」を期待したのは、前にも述べたとおりである。私は口をさしはさみ、そういう質問を暗示した。 「女かい? ふん。俺にはこのごろ、内飜足の男を好きになる女が、カンでちゃんとわかるようになった。女にはそういう種類があるんだよ。内飜足の男を好きだということは、もしかすると一生隠されたまま、墓場へまで一緒にもって行きかねない、その種の女の唯《ゆい》一《いつ》の悪趣味、唯一の夢なんだが。  そうだな。内飜足を好く女を一目で見分ける法。そいつは大体において飛切りの美人で、鼻の冷たく尖《とが》った、しかし口もとのいくらかだらしのない……」  そのとき一人の女がむこうから歩いてきた。 第五章  さてその女は、グラウンドの中を歩いていたのではない。グラウンドの外側に、屋敷町に接した道がある。道はグラウンドの地面よりも二尺ほど低い。そこを歩いてきたのである。  女が出て来たのは、宏壮《こうそう》なスペイン風の邸《やしき》の耳門《くぐり》であった。二つの煙《けむ》出《だ》しを持ち、斜《なな》め格《ごう》子《し》の硝子《ガラス》窓《まど》を持ち、ひろい温室の硝子屋根を持っている邸は、いかにも壊れやすい印象を与えるが、当然そこの主人の抗議で設けられたにちがいない高い金網《ネット》が、道をへだてたグラウンドの一辺にそそり立っていた。  柏木《かしわぎ》と私はネットの外れの遊動円木《ゆうどうえんぼく》にいたのである。女の顔を窺《うかが》った私は愕《おどろ》きに搏《う》たれた。そのけだかい顔は、柏木が私に説明した「内飜足《ないほんそく》好き」の女の人相に、そっくりであったからだ。しかし後になって私はこの愕きを莫迦《ばか》らしく思うのだが、柏木はその顔をずっと前から見知っていて、夢みていたのかもしれないのである。  私たちは女を待ち設けていた。春の日光の遍満の下に、むこうには濃紺《のうこん》の比《ひ》叡《えい》の峯《みね》があり、こちらには次第に歩み寄って来る女があった。私はさきほどの柏木の言葉、彼の内飜足と彼の女とが、二つの星のように、互いに触れ合わずに実相の世界に点在し、彼自身は仮象の世界に無限に埋もれつつ欲望を遂げるという奇怪な言葉、あの言葉の与えた感動からまだ醒《さ》めずにいた。このとき雲が日のおもてをよぎり、私と柏木は稀薄な翳《かげ》に包まれたので、私たちの世界は、たちまち仮象のすがたを露《あら》わすように思われた。すべては灰色に覚束《おぼつか》なく、私自身の存在も覚束なくなった。そしてかなたの比叡の紫《し》紺《こん》の頂きと、ゆっくり歩いてくる気高い女と、この二つのものだけが実相の世界にきらめいて、確実に存在しているように思われた。