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tsutaya 新作 cd編集

「あんたは、天然理心流の沖田総司君だな」 「ご存じですか」  沖田は、にこにこした。この若者も、肝の在《あ》りどころが変わっているらしい。 「幸い、ここに御流の師範代がお二人までそろっていらっしゃる。御流には、われわれ、遺恨のことがある。晴らしたい」 「あなたは、どなたです」 「そこで箸を動かしている土方歳三君がご存じのはずだ」  人を、君づけでよぶ。  近頃、諸方を横行している尊攘浪士のあいだで流行《はや》りだした言葉で、案外七里という男は、固陋《ころう》な上州者に似合わず、新しいことに敏感な男なのかもしれない。 「薬屋」  こんどはそんな呼び方で、歳三をよんだ。 「六車殺しの証拠はあがっている。おれが代官所に訴え出れば、それでカタがつく。が、われわれ比留間道場は、それを慈悲でせぬ。安堵《あんど》しろ」 「………」  ちなみに。——  武州(東京都、埼玉県、神奈川県の一部)の地は、江戸をふくめて、面積およそ三百九十方里。  石高にすれば、百二十八万石。  ほとんど、天領《てんりよう》(幕府領)の地である。江戸の関東代官、伊豆の韮山《にらやま》代官(江川家)などの幕吏が治めていたが、諸国の大名領とくらべるとうそのような寛治主義で、収税は定法《じようほう》以上はとりたてず、治安の取締りもゆるい。百姓どもも、  ——おらァどもは大名の土百姓じゃねえ。将軍さまの直《じき》百姓だ。  という気位があり、徳川家への愛情は三百年つちかわれている。これは、近藤にも土方にも血の中にある。
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