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ミュ ウミ ュウ バッ グ公式編集

「福来さん。あなた、こんなところで何をしてるんです」 「あんたこそ何なんだ。そんなこと私に訊けた義理かね」  福来が唇をゆがめて笑った。 「用もないのに霊安室へ来たってのかい」  福来が顔を近づけてきた。ぷんと酒の匂いがした。 「福来さん、あんた飲んでるのか」 「とぼけるんじゃないよ。あんただって、そのためにここへ来たんだろうが」 「どういう意味です。おれは病院の中を散歩してて偶然ここに着いただけで……」 「いいからいいから。まったくアル中の考えることはみんな一緒だな。こっちへ来いよ」  福来はおれを、霊安室のさらに奥の方へ誘った。奥手には祭壇がしつらえられていたが、灯は点《とも》っていなかった。福来はその祭壇から陶器のコップを取ると、横にあるガラスケースの前で何やらごそごそしていた。 「ほら。かけつけ三杯だ」  差し出されたコップを受け取ってのぞき込むと、透明な液体が半分ほど満たされていた。つんと鼻をつく匂いがする。 「これは?」 「エチルだよ。薬用アルコールだ。あんた、これが目当てできたんだろ?」  おれは一から声に出して数を数えた。  三十くらい数えたところで、とろんとしてきて口を動かすのが面倒になってきた。四十へいくまでに、半分夢を見ているような状態になってきた。  それでも、おぼろげながら、自分が何をされているのかはわかる。  めくり上げられた腹のあたりが、冷たい布で拭かれ、何か先の細いもので印をつけられているようだ。目をあけて見るのだが、下半身にカヴァーがかけられていて、患者からは見えないようになっている。医師たちのうぐいす色の上着が、ぼんやりと見えるだけだ。
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