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 この場所で、あの月明の夜、六車宗伯を斬った。たしかに斬ったが、ほとんど夢中で、なんの覚えもない。  あのときと同じように、歳三はスラリと刀をぬき、左上段にかまえた。  眼をつぶった。記憶を再現するためであった。やがて眼をひらき、眼をこらしてそこに太刀を構えている宗伯のすがたをありありと再現しようとした。 (なぜ、一太刀で斬れなかったか)  ここ数カ月、そればかりを工夫した。道場では、近藤と立ちあうときも、永倉、藤堂などと立ちあうときも、相手が、あのときの六車宗伯であるとして、撃ち込んだ。 (わからぬ)  いま、そこに六車宗伯がいる。  歳三は、踏みこんだ。  六車がかわす。 (浅い)  何度やっても、不満であった。小技《こわざ》すぎた。ついに歳三は上段のまま動かなくなり、気合を充実し、小半刻《こはんとき》も草の上に立ちつくした。風が歳三をなぶっては吹きすぎてゆく。  ついに、見た。  六車宗伯が気倒《けお》され、重大な|すき《ヽヽ》ができた瞬間を思い出した。  歳三は、どっと踏みこみ、振りかぶって右袈裟《みぎげさ》に大きく撃ちおろした。  戞《かつ》  と漆の幹が鳴って、空を掃きながらたおれた。歳三の映像のなかの六車宗伯も、たしかに真二つになったとみたとき、背後で、声がした。 「なにをなさっています」  ふりむくと、佐絵である。それだけ云うのがやっと、というほど真黒い眼がおびえていた。
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